森羅万丈

はてなダイアリー(~2017)から引っ越し、心機一転リスタートです。

「悪いインフレ」と「悪いデフレ」はどちらも良くないという話

引き続きの隔月更新ですが、無理やりモチベーションを上げているのではなく
2か月に1回は自然とモチベーションが上がってくれるのは幸いです。
0と比べれば1は無限大なので、完全に折れることの無いようにしたいです。

さて、今回も読書感想文ですが、アマゾンレビューで好評な中原圭介氏の著書です。
アベノミクスの恩恵を受けていない人達が、歯に衣着せぬ物言いに溜飲を下げる一方で、
批判層の支持を集めたいがゆえの批判ありきの評論に過ぎないという意見もあります。

実際に読んでみて感じたのは、著者は決して盲目的なデフレ信奉者ではなく、
インフレであろうがデフレであろうが、悪いものは悪く、良いものは良いという
極めて合理的な視野の持ち主でありつつ、世の中にアベノミクス賛辞が溢れるがゆえに
真っ向勝負とばかりに「悪いインフレ」の問題点を意識的に羅列している、ということです。

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「良いインフレ」・・・名目賃金の上昇が物価の上昇を超え、実質賃金も増える状態。
「悪いインフレ」・・・名目賃金の上昇が物価の上昇に及ばず、実質賃金が減る状態。
「良いデフレ」・・・名目賃金の低下が物価の低下より緩く、実質賃金は増える状態。
「悪いデフレ」・・・名目賃金の低下が物価の低下より激しく、実質賃金も減る状態。

現在は2番目の「悪いインフレ」で、確かにデフレ脱却の傾向は見えているものの
結局のところ「悪いデフレ」から「悪いインフレ」に移行したに過ぎない。

一方、「悪いデフレ」は国全体が緩やかに地盤沈下を起こしている状態なので
誰もが問題意識を共有しやすいのに対し、「悪いインフレ」においては
高額所得者や大企業といった富める者はますます富を蓄えていくため
庶民や中小企業の窮状が伝わりにくく、格差が助長されてしまう。

しかるに、インフレ自体は決して日本再成長の特効薬ではなく、
問題点を直視し、現状の条件反射的な賛辞は止めなければならない。

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と、主張自体は正論そのもので、頷ける部分も多々あるのですが、
あまりにも「悪いインフレ」の批判にエネルギー(文章量)を注ぎ込み過ぎていて、
具体的に、良いインフレに転換するなり、良いデフレに巻き戻すなりするには
どうしたら良いのかという建設的な意見の言及が乏しい点は、残念でもありました。

インフレ対デフレという二極論ではなく、視野を広げるという意味で
勉強のため読むと割り切れば、ちょっと高いですが、良い本だと思います。

個人的には、原油価格低下という圧倒的なデフレ要素が発生している以上、
無理やり金融緩和で対抗してインフレ継続に拘るのは勘弁していただいて、
物価の上げ下げに関する政策は一旦リセットして、いわゆる「三本の矢」を
三本ともちゃんと射貫くための政治努力をしてほしいと思う次第であります。

これから日本で起こること

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