森羅万丈

はてなダイアリー(~2017)から引っ越し、心機一転リスタートです。

寸劇「ティーンエイジ・ミュータント・センゴク・ハナ・ランブ」

あやめ「珠美殿、そろそろ機嫌を直してください~」

珠美「そう簡単に直ると思ったら大間違いです! 大体あやめ殿は普段から、器の大きなちびっ子とか、かわいいとか、年上を敬うという気持ちが微塵も感じられません!」


あやめ「一つ目は確かに失言でしたが、二つ目は決して貶めるために言っているわけではありませんよ。かわいい珠美殿をかわいいと言って何が悪いんですか(真顔)」


珠美「……………ま、まあ、そこまで言うなら今日だけは大目に見ましょう。ところで、先程は世界進出のためと言っておりましたが、何か具体的な計画でも?」


あやめ「(ほっ)よくぞ聞いてくれました! 百聞は一見に如かずと申しますゆえ、まずはこの漫画の表紙をご覧ください!」


珠美「えーと、これは一体…? カメが侍をしているようにしか見えませんが…」


あやめ「いいえ! カメには違いありませんが、これは侍ではなく忍者なのです! その証拠に、題名にもしっかりと『ニンジャ』の文字が入っています!(どや顔)」


珠美「た、確かにそう書いてある…! それによく見たら英語版ですか… アメリカンコミックは底が知れませんな」


あやめ「話を戻しますが、これは忍術を覚えた四人組の忍者カメがそれぞれ、刀、かんざし、ヌンチャク、棒を武器にして、悪と戦う物語なのです!」


珠美「忍者を名乗るには武闘派すぎる気もしますが… 四人組ですか。なるほど、読めてきました」


あやめ「そうですか! さすがは珠美殿、話が早い!」



(ガチャ)




葵「あやめさん、珠美さん、いるー?」


仁美「なんか不穏な雰囲気って聞いたから、念のために来てみたんだけど」


あやめ「まったく問題ありません! それよりもお二方、ちょうど良いところに来てくれました! 我々四人で世界進出しましょう!」


葵・仁美「え?(ぽかーん)」


珠美「あやめ殿、いくらなんでも話を端折り過ぎです! 実はですね…」


(かいつまんで状況を説明する)


葵「要するに、この漫画がアメリカで大人気だから…」


仁美「私達四人がメインキャストになって、向こうでも一旗あげようってわけね」


あやめ「そういう事です! 皆さん、本当に飲み込みが早くて助かります!」


珠美(説明したのは珠美なんですが。まあ、仕方ありませんね。ここはお姉さんとしての余裕と貫禄を見せておきましょう、年上ですから!)


仁美(あれはどう見ても優越感で得意になってる顔ね。あやめっちからは死角で見えないけど)


あやめ「では早速、配役を決めましょう! まず、ヌンチャク使いのムードメーカー役は、仁美殿が適役とお見受けします!」


仁美「えー、やだ! 武器が慶次っぽくない!!」


あやめ「はっ、わたくしとしたことが、とんだ粗相を! 承知しました、武器は朱槍に差し替えましょう!」


仁美「それならオッケー!」


葵(いいのかなぁ)


あやめ「それと葵殿には、知略と機械術に長けた棒術使いの役をお願いしたく存じます!」


葵「う、うん、いいけど… 知略とか機械術とか、あやめさんはあたしのこと、ずいぶん切れ者として買ってくれてるっちゃね」


仁美(いけない! 葵っちのほうが年下なのに、この流れだとまた珠美っちが不機嫌に…)


珠美「あやめ殿! 珠美は当然、刀の達人である主人公ですよね!?」


仁美(…話を聞いてなかった! というか一瞬で余裕も貫禄も飛んでるし!)


あやめ「いいえ! たとえ珠美殿とて、ここは譲れません! わたくしが持ち込んだ企画なのですし、刀を使うといえども忍者なのですから、主役はわたくしです! 珠美殿にはかんざしを使っていただきます!」


珠美「くっ! 交渉決裂となれば致し方ありません! ここはシリアスマッチ、真剣勝負でどちらが主役にふさわしいか決着をつけましょう!(ドン!)」


あやめ「望むところです!(バン!)」


葵「わーっ、あやめさん、珠美さん、早まったらいけないっちゃ!」


仁美「二人とも、頭を冷やしなさーい!」





(なぞのま)






あやめ「…ここは一時休戦といたしましょうか、珠美殿」


珠美「ふっ。クールサムライガール、タマミ・ワキヤマともあろう者が、つい我を失ってしまいました」


葵(だから年下に見られちゃうんじゃないかなぁ)


仁美「そもそも、メインキャストの四人だけじゃ話が成立しないでしょ? 他の配役の事だって考えないと」


あやめ「左様でございますな。まずは、四人に忍術を教えた師匠。この存在は物語の上で外すことは出来ません…」




(ガチャ)




キャシー「ずいぶん賑やかだけど、何の話してるのー?」


珠美「おお、キャシー殿!」


あやめ「渡りに船とはまさにこの事! 和の心を持つアメリカンアイドルである貴殿が仲間に加われば百人力です!」


(二人がかりで事情を説明する)


キャシー「そういうことなら望むところ! ニンジャかつサムライな役でアメリカに恩返しだね!」


珠美「とんとん拍子とは正にこの事… 瞬く間に配役が決まっていきますな!」


あやめ「やはり、この企画は与えられるべくして我々に与えられたのです!」


葵(この調子だと、また何か落とし穴がありそうっちゃ…)


仁美「えーと、あやめっち。師匠役が決まったところで、あとは?」


あやめ「後は、なんといっても宿命のライバル… キャシー殿が演じる我々の師匠、その更に師匠を抹殺した、仇討ちのために倒すべき敵です!」


キャシー「おー、燃えるねー。喧嘩と仇討ちは江戸の華ってね!」


珠美「して、あやめ殿。その敵役にこれといった考えはあるのですか?」


あやめ「いいえ。ですが、曲がりなりにも世界進出を果たそうという舞台。その最大の見せ場を飾っていただく以上は、相応の方にお願いしなければとは思っております」


珠美「まったく、その通りですな! 世界進出にふさわしい方… 世界…」


あやめ(あっ……)


珠美(あっ……)








世界レベル








仁美「もしもーし? あやめっち? 珠美っち?」


キャシー「これは、満席の浅草演芸ホールで完全にスベった芸人コンビでも、なかなかお目に掛かれない固まりっぷりだね!」


あやめ「ふっ… 珠美殿、どうやら我々は現実を見据えなければならないようです」


珠美「奇遇ですな、あやめ殿。珠美もまったく同じ事を考えておりました」


葵(…あ、帰ってきた)


あやめ「世界へ打って出るには、今はまだあまりにも力不足。まずは忍ドルとしてだけでなく、アイドルとしての地位と実力をしっかりと固めなければなりません… 遅まきながらこの浜口あやめ、その事を強く思い知らされました」


珠美「まったく同感です! 珠美も日の本一のアイドルとして名を馳せるため、今まさにこの瞬間からでも精進に精進を重ねなければ!」


葵(…と思ったら、目の前を通り過ぎて、別の方に行っちゃった)


あやめ「こうしてはいられません! 夜稽古です!」


珠美「お供しますぞ! 仁美殿、葵殿、キャシー殿! 御一緒にどうですか!」


仁美「あー… 諸君諸君、いくら何でもアッチからコッチに振り切れ過ぎじゃない?」


葵「あたしも、この流れにはさすがに付いていけないんちゃ…」


キャシー「稽古は大事だけど、今の二人に割って入るのは無粋ってもんだね!」


あやめ「ならば珠美殿、レッスンルームにどちらが先に着くか競争しましょう!」


珠美「望むところ! 今こそ、あの時の借りを返す時… いざ尋常に、勝負っ!」


あやめ・珠美「うおおおおおおーーーーーー!!」





(やみのま)





葵「行っちゃった…」


仁美「はあ… キャシーちゃん、ごめんね。無理やり巻き込んだ上に置いてきぼりさせちゃって」


キャシー「あっはっは、いいよいいよ! 何かに打ち込むと周りが見えなくなるのは良くある事だし!」


葵「キャシーさん、お人が出来てるっちゃ…!」


キャシー「でも、やってみたいって思ったのは本当だから、また話が持ち上がったら教えてね!」


仁美「…わかった。アタシも、慶次の名を世界に広めたくないかって言われたら嘘になるしね」


葵「あたしは、今はまだ全然ピンと来ないけど… でも、あたしの芸とか、料理とかも海の向こうで喜ばれたら、嬉しいな。せっかく英語の勉強もさせてもらったし」


キャシー「そうこなくっちゃ! その意気で、みんなでトップアイドルになっちゃおう!」


仁美・葵・キャシー「おーーーーーー!!」







ティーンエイジ・ミュータント・センゴク・ハナ・ランブ』 了